
コラム
2026/5/12 (火)更新
未経験エンジニアは「SESしかない」は誤解?キャリア戦略を解説

監修者:茂神 徹
「未経験からエンジニアになりたいけれど、『SESしかない』『SESはやめとけ』という情報ばかりで不安」という声は少なくありません。確かに、未経験者の入り口としてSES(客先常駐)の求人が多い傾向にあります。
しかし、SESという働き方を正しく理解し、「賢く利用する」視点を持てば、SESは理想のキャリアへの足がかりになる可能性があります。また、適切な準備を行えば、最初からSES以外の選択肢を検討できる場合もあります。ここでは、未経験エンジニアが知っておくべき業界の現状と、キャリア戦略について解説します。
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この記事のトピックス
- SESの実態と業界構造を正しく理解し、優良企業と悪質企業を見分ける方法
- 未経験からSES以外(自社開発・受託開発)を目指すための具体的な準備と戦略
- AI時代に求められるポートフォリオと学習法で市場価値を高める方法
SESしかないと言われる理由と業界事情

なぜ「未経験にはSESしかない」と言われることがあるのでしょうか。その背景にはIT業界特有のビジネスモデルと、企業側の採用に関する事情が影響していると考えられます。
IT業界の多重下請け構造と未経験求人の関係
IT業界は「取引段階が複数になるケース」や「契約関係が重なるケース」で成り立っている側面があり、元請けの大手企業から、二次請け、三次請けと協力会社が連なるケースが多く見られます。多重下請けとは、発注が複数の企業を経由して現場のエンジニアへ届くピラミッド型の構造を指します。公正取引委員会の「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査」においても、こうした構造の存在が指摘されています。この構造の一端を支えているのが多くのSES企業であり、IT業界全体の過半数がSESまたはSIer構造に属しているとも言われています。 自社開発企業や受託開発企業は、特定の成果物を納品して利益を得るため、即戦力を求める傾向があり、教育コストのかかる未経験者の採用枠は限定的になる場合があります。一方、SESは「エンジニアの技術力を提供する」ビジネスモデルであり、現場には高度な業務から比較的平易な業務まで幅広く存在するようです。そのため、未経験者でも参画できる案件が発生しやすく、採用の間口が広くなる傾向があると考えられます。具体的には、テスト業務、運用監視、手順化された改修作業など、比較的オンボーディングしやすい業務から始めるケースが多いようです。
契約形態と指揮命令権の違い
SESや客先常駐という言葉は混同されやすいため、契約形態の違いを理解しておくと良いでしょう。主な契約形態は以下の通りです。
| 契約形態 | 指揮命令権の所在 | 特徴 |
|---|---|---|
| 派遣契約 | 派遣先企業 | 派遣先が直接、業務指示や勤怠管理を行う |
| 準委任契約(SES) | 自社(派遣元) | 自社が労務管理を行い、派遣先は成果物や役務の提供を受ける |
| 請負契約 | 自社(受託側) | 成果物の完成責任を負う |
厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」によると、準委任契約や請負契約であっても、発注側が個人のエンジニアに対して直接、作業指示や勤怠管理を行っている場合は「偽装請負」に該当する可能性があります。偽装請負は労働者派遣法違反となるため、入社前に自社の労務管理体制が適正かどうかを確認することが大切です。
本記事で使用する専門用語
- 待機
- 配属先が決まるまで自社で待つ期間のこと。給与条件は会社によって異なる。
- 単価
- 会社が客先から受け取る月額の契約金額のこと。エンジニア個人の給与とは別の概念。
- 案件ガチャ
- 配属先や業務内容を自分で選べず、会社都合で決定される状況を指す俗称。
- 単価開示
- エンジニアに対して自身の契約単価を公開すること。給与の透明性を示す指標となる。
- 帰社日
- 客先常駐している社員が自社に戻り、報告や研修を行う日のこと。
SESのメリットとデメリット
「SESはやめとけ」という意見は、発信者の体験(所属した会社や配属された案件)によって評価が割れやすい傾向があるため、慎重に判断する必要があります。SESには一般的に以下のようなメリットとデメリットがあると言われています。
| 項目 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 経験 | 様々な現場で多様な技術に触れられる可能性がある | プロジェクト終了で環境がリセットされる場合がある |
| 入社難易度 | 未経験でもポテンシャル採用されやすい傾向がある | 待遇面に課題がある企業も混在している可能性がある |
| キャリア | 大手企業のプロジェクトに関われる機会があるかもしれない | 下流工程が続くとスキルが伸び悩む可能性も考えられる |
上記の「待遇面に課題がある企業」とは、具体的には研修が形骸化している、待機期間中の賃金が低い、配属プロセスが不透明、評価制度が曖昧といった特徴を持つ企業を指します。こうした企業を避けるための具体的なポイントは、後述の「成長できる優良SES企業を見分けるチェックポイント」で詳しく解説します。 SESの大きなメリットの一つは「実務経験を積むハードルが比較的低い」点と考えられます。独学で学習を続けても、「実務経験」と比較すると評価されにくい場面があるかもしれません。SESは給与を得ながら「エンジニアとしての最初の実績」を作る場として、選択肢の一つになり得ると考えられます。
ネット上の「きつい・ブラック」評判の背景
「きつい」「ブラック」と言われる評判の背景には、いわゆる「案件ガチャ」や一部の企業の対応が関係している可能性があります。「案件ガチャ」とは、配属先を自分で選べず、スキルに見合わない現場や、希望しない環境に配属される状況を指す言葉です。 また、一部の企業では、エンジニアとしてのスキルアップが難しい業務に長期間従事するケースも報告されているようです。しかし、すべてのSES企業がそうではなく、エンジニアのキャリアを真剣に考える優良企業も数多く存在します。「SES=悪」と決めつけるのではなく、「自分に合わない企業をいかに避けるか」という視点を持つことが大切です。
SESを「キャリアのスタート地点」と捉える
最初のキャリアがSESになったとしても、悲観する必要はないでしょう。重要なのは、SESを「ゴール」ではなく「キャリアのスタート地点」と捉えることかもしれません。 現実的なキャリアステップとしては、テスト業務→運用・保守→開発補助→設計といった流れで徐々に上流工程へ移行していくパターンが一般的です。受動的に「会社が育ててくれる」と待っているだけでは、AI時代に取り残されるリスクがあります。重要なのは「AIツールを使いこなし、学習や調査の速度を上げやすい環境を自ら作る」意識です。 例えば、現場で出会った未知のコードを生成AIで即座に解析したり、ドキュメント作成をAIで効率化したりすることで、未経験者であっても早期にプロジェクトに貢献することが可能です。SESを「給与を得ながら、最新のAI開発手法を実践で試せる場」と捉え、市場価値を高める姿勢が求められます。
悪質なSES企業を避け優良企業を見抜く

SES企業に入社すること自体が失敗ではないでしょう。避けるべきは、成長の機会が少ない環境に長く留まってしまうことかもしれません。ここでは、自分に合った環境を見極めるポイントについて解説します。
危険な可能性のある求人・面接のサイン
入社を慎重に検討すべき企業には、求人票や面接段階でサインが見られる場合があります。
面接時には「どのような案件に配属される可能性があるか」「待機期間中の給与保証はあるか」などを質問し、回答が明確か確認することをおすすめします。
成長できる優良SES企業を見分けるチェックポイント
未経験者が成長しやすい「優良SES企業」を見分けるには、以下のポイントを確認すると良いでしょう。
案件選択制度や単価開示の有無
案件選択制度や単価開示の有無は、企業の透明性を測る一つの指標になり得ます。エンジニアの希望を聞く姿勢があるか、案件の単価を開示して納得感のある給与設定を行っているかを確認すると良いかもしれません。
教育・評価制度の具体性
教育・評価制度の具体性も大切です。「書籍購入補助」「資格取得手当」「外部研修の受講支援」など、スキルアップに対する具体的な支援があるかを見てみましょう。技術力の向上が評価に反映される仕組みがあるかもポイントです。
メンター制度や帰社日の活用
メンター制度や帰社日の活用がある企業は、社員同士の技術共有を促している場合があり、成長環境としてプラスになる可能性があります。
面接で確認すべき具体的な質問
上記のポイントを見極めるため、面接では以下のような質問をすると良いでしょう。
| 確認項目 | 具体的な質問例 |
|---|---|
| 待機時の給与 | 「待機期間中の給与は満額支給でしょうか、それとも何割程度になりますか?」 |
| 配属決定プロセス | 「配属先を決める際、本人の希望はどこまで反映されますか?案件を断る選択肢はありますか?」 |
| 研修の形式 | 「研修は座学中心ですか、演習中心ですか?メンターやコードレビューの仕組みはありますか?期間はどれくらいですか?」 |
| 評価制度 | 「昇給の要件や資格手当の条件は明確に定められていますか?」 |
現場でスキルアップするための立ち回り方
良い環境に入れたとしても、現場での振る舞いによって成長速度が変わる可能性があります。以下のような意識を持つと良いでしょう。
- 課題発見を意識する:与えられたタスクだけでなく、「この作業は効率化できないか」など小さな改善提案を行うことで、評価につながる可能性があります。
- 質問の仕方を工夫する:「ここまで調べましたが、ここから先がわかりません」という仮説を持った質問を行い、先輩エンジニアの考え方を学ぶと良いでしょう。
- 業務知識を吸収する:金融、物流、医療など、その現場特有の業務知識は、技術力と共に評価されるスキルになることがあります。
SES以外の選択肢と未経験からの挑戦
「未経験からSES以外は難しい」と言われることもありますが、不可能ではありません。企業形態の特徴を理解し、適切な準備をすれば、SES以外の選択肢を検討できる可能性があります。
自社開発・受託開発・SIer・社内SEの違い
企業形態によって、求められるスキルや働き方は異なる傾向があります。
| 企業形態 | 特徴 | 未経験入社の難易度 |
|---|---|---|
| 自社開発 | 自社サービスを開発・運営 | 高め(即戦力重視の傾向) |
| 受託開発 | 顧客依頼のシステムを開発・納品 | 中〜高め |
| SIer | 大規模システムの構築を一括請負 | 中(新卒・第二新卒有利の傾向) |
| 社内SE | 自社の社内システムを運用・保守 | 高め(枠が少ない傾向) |
自社開発企業は人気が高く、技術力と「自走力」が求められることが多いようです。受託開発は納期などの厳しさがある一方で、技術力を磨く場として適している環境も多いと考えられます。
求人票でSES企業と自社開発企業を見分けるポイント
求人サイトの表記と実態が異なるケースもあるかもしれません。見分けるためのポイントをいくつか紹介します。 勤務地の記載を確認すると良いでしょう。「本社」と固定されている場合は自社開発や受託開発の可能性が高いと考えられます。「都内近郊のプロジェクト先」「各クライアント先」といった記載がある場合は、客先常駐(SES)の働き方になる可能性があります。 従業員数とオフィス環境も参考になるかもしれません。従業員数に対してオフィスの規模が小さい場合、多くの社員が社外で勤務しているSES形態である可能性が考えられます。
未経験からSES以外を目指すための必須条件
未経験から自社開発や受託開発を目指す場合、「ポテンシャル」を評価してもらう必要があるでしょう。企業が求める「自走力」の定義は進化しています。単に「自分で調べる」だけでなく、「生成AI(コード補助、文章化、調査補助などの用途)を壁打ち相手にし、エラーや不明点を自力で解決して形にする力」が厳しく問われます。技術への関心に加え、「最新ツールを使い倒して、実務に近いレベルのアウトプットをどれだけ出せるか」が採用の分かれ目となります。
採用に繋がるポートフォリオと学習法

どのような企業形態であれ、採用を目指す上での強力な武器は「質の高い学習」と「ポートフォリオ」と言えるでしょう。評価につながりやすいアウトプットの方法を解説します。
AI時代の学習ロードマップ
プログラミング学習では、挫折を防ぎながら継続することが大切です。以下のような順序で進めるとスムーズかもしれません。
- 基礎理解とAI活用:プログラミング言語の基礎を学びつつ、AI(ChatGPT等)にコードの解説をさせる習慣をつける
- AIエディタの導入:エンジニアに必須の「Cursor」などのAI搭載エディタを使いこなす
- 実戦開発:フレームワークを使い、AIと対話しながら「誰かの課題を解決する」オリジナルアプリを作る
- プロの作法を再現:開発の過程をGitHubに記録し、プルリクエスト(自分で自分にレビューを行う等)を使って、実務に近い形式で履歴を残す
働きながら学習時間を確保するには、朝の時間などを活用するのも一つの方法です。生活リズムの中に学習を組み込むことが、継続のコツと言えるでしょう。
採用担当者が評価するポートフォリオの要件
AIで簡単にコードが書ける今、採用担当者は「完成品」だけでなく「プロセス」を見ています。
- ユーザーフィードバック:アプリを公開し、実際に誰かに使ってもらって改善した実績(AIにはできない経験)
- 開発プロセスの可視化:GitHubで「どのようにエラーを解決し、どのような意図でコードを書いたか」という思考の跡をプルリクエストという形で残す
スクールの課題のような「どこにでもあるアプリ」は評価されにくくなっています。
GitHubで技術力と学習継続性を証明する方法
採用担当者は、アプリの見た目だけでなくGitHubのソースコードを確認する場合が多いようです。以下のポイントを意識すると良いでしょう。 コミットメッセージを工夫し、作業内容がわかるように記録を残します。また、README(説明書)を充実させ、アプリの概要や使用技術、設計図などを記載することで、ドキュメント作成能力のアピールにつながる可能性があります。 また、継続的にコードを書いてコミット履歴を残すことで、学習習慣があることを視覚的に証明するのも効果的かもしれません。
資格取得の有効性について
ポートフォリオが重視される傾向にありますが、未経験者にとって資格もプラスに働く場合があります。 基本情報技術者試験などは、コンピュータの基礎知識があることの証明になり得ます。特に30代未経験の場合などは、基礎的な知識の裏付けとして評価されることもあるようです。クラウド関連の資格も、インフラや新しい技術への関心を示すのに役立つかもしれません。 資格だけで採用が決まるわけではありませんが、「熱意と基礎知識の証明」として、ポートフォリオと組み合わせることで効果を発揮する可能性があります。
まとめ
「未経験エンジニアはSESしか選択肢がない」という言葉は、一つの見方に過ぎないと言えるでしょう。確かにSESは大きな入り口ですが、使い方次第で「理想のキャリアへのステップ」になる可能性があります。 大切なポイントは以下の通りです。
年齢や経歴に関わらず、適切な準備と戦略があれば、エンジニアとしての道が開ける可能性は十分にあります。まずは手を動かしてポートフォリオを作り、自分自身の市場価値を高める行動から始めてみてはいかがでしょうか。
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